革化け(かわばけ)職人れん。
〜自己紹介に代えて。
「革細工への第一歩。」
もう何年も前のこと、自分のクルマのハンドルがボロボロになっていた。昨今のクルマにはあり得ないことではあるが、僕のクルマは1973年製。ご老体に鞭を打ちながら乗っているのだから当り前でもある。さてどうしたものかと、ハンドルのボロを眺めているうちに、「よっしゃ!革を巻き直そう。」 無謀にも思ったその瞬間が、僕の革細工への第一歩であった。
早速材料調達に向うも、それまで革細工などやったことなどなく、何をどう揃えてよいのやら。なんとなく買ってきた黒い牛革と、今まで手にしたことすらない太い針。糸は手芸店で買ってきた太番手の綿糸を用意した。メジャーでハンドルの外周と径を測り、長〜い長方形を革の裏側へボールペンで描く。革は伸びるものと素人ながらも知っていたので、それでも適当に寸足らずにして裁断をした。そこへ5ミリピッチで千枚通しで針穴を空け、あとはおもむろに靴紐を通すが如く、クロスステッチで縫上げた。今思えば、かなり強引な作り方だ。それでも当時は一生懸命だった。慣れない手縫作業で肩がパンパンに張る。ひと目ひと目ギュウギュウに絞めあげるので手が痛い。たかが36パイのハンドルを縫上げるのに、一日仕事になってしまった。
子供の頃からモノを作るのが好きだった。自分でいうのもなんだけど、なので手先は器用な方だと思う。出来あがったハンドルも、当初の予想を遥かに越えて、大満足の仕上がりになった。
早速クルマに取りつけて週末のドライブ。革の張りを手のひらで感じ、グリップの良くなったハンドルに有頂天な僕。それまではビニールレザーが巻かれていたハンドルだったので、“本革”の感覚がたまらなく良かった。まるでクルマがチューンアップされたかの如く錯覚を覚え、あてもなく散々走り回った。何処まででも走りに行けそうだと思った。恐らく僕は、とても単純な男なのだろう。たかだかハンドルに新しい革を巻きつけただけの話である。それでも僕の気分は爽快だった。そして、あることが実感として頭に残ったのだ。
「革って良いなぁ、、、。」
革細工への第一歩を、こうして僕は踏みしめた。
page 1・2